マッチメーカー目次へ戻ります【第8話】初陣、波瀾の幕開け−3
 でもまだ納得がいかないという顔をしていたミケだが、肝をすえたのか、少し落ち着い
たようだ。それを見ていたトミーは、安心して話を進める。
「最後に、ミケへの安全確保についてだが…」
「ああ、それでしたら…脱出装置は、『脱出ハッチ』がもしもの場合作動するようになって
います」
「それだけか」
「…なあに、大丈夫ですよ。イニングマッチですから、よほどの事がない限り大丈夫です
よ」
 しかし、マーティンのその言葉を聞いても、トミーは、会場に着いた時から続いている
胸騒ぎを禁じ得なかった。そこへ、MM会場内にアナウンスが響き渡った。
『…大会開始一時間前です。AKの搬入を済ませていないチームは、早急に搬入を完了さ
せて下さい。繰り返します…』
 それを聞いたトミーは、不安を掻き消すように、勢い良く椅子から立ち上がった。
「さあ、早いとこスター・アトランティスを搬入しよう。もう試合開始まで時間が無いぞ」
『おー!』
 トミーの言葉に、皆に気合いが入る。それを見て、サムスがほくそ笑む。
「どうしたんだ、サムス。気持ち悪いなぁ」
 するとサムスは、トミーの肩を軽く叩きながら、
「いやぁ、悪い悪い。なぁに、随分オーナーらしくなったじゃないか。この調子で頼むぜ、
オーナー」
「か、からかうのはやめろよ。俺はただ、やるべき事をやっているだけだし…」
「ははは、結構結構。さ、スター・アトランティスの搬入を見に行こうぜ、オーナー」
「やっぱり、照れるよなぁ…」
 トミーは頭を掻きながら、からかうサムスと共に、トレーラーの外へと出た。そこでは、
マーティンが声を張り上げて、スター・アトランティスの搬入を指示していた。
「よおーし、ゆっくりと降ろせ。ゆっくりとだぞ、そう、ゆっくりと…必要以上の衝撃を
与えるなよ!」

グウーーー…ン…

 今、トレーラーの後部から、スター・アトランティスの脚部が姿を現していた。スター・
アトランティスを乗せている台が、ゆっくりとスライドして地面に付くと、さらにスライ
ドして、機体の全貌が明らかになった。改めて機体を良く見ると、良く磨き込まれたボデ
ィがライトに反射してキラキラと輝き、眩しいばかりだ。そして、両肩の装甲部分には、
ミケ専用機であることを示す、猫のシルエットマークが新たに描かれていた。

…ガシュッ…ウウウゥゥゥゥンンンン…

 機体が全部トレーラーの外へ出ると、今度は機体を起こそうと、モーターが低いうなり
声を上げ始める。

…ゴウン…

 鈍い音が響くと同時に、スター・アトランティスの巨体が地に立った。コクピットのあ
る胴体までのタラップをかけると、マーティンのメカニックスタッフ達が、機体の最終チ
ェックに取り掛かった。


「……ふぅ…」
 一体今日で何回目であろうか、ミケはトレーラー内にある自分の控え室で、溜め息をつ
いては窓の外を眺めるという動作を繰り返していた。窓の外では、スター・アトランティ
スの巨体が、今まさに立ち上がろうとしているところだった。
「…大丈夫なのかなぁ…勝てるのかなぁ…うぅーーん…」
 ミケは一つ伸びをすると、窓べに顔をくっつけて、マーティンの仕事ぶりを眺める。ミ
ケはすでにパイロット・スーツを着込み、傍らに猫のシルエット・マークの入ったヘルメ
ットが置いてあった。
「…マーティンの言ってた事…私…本当に100%の力を出す事が出来るのかなぁ…あん
なにシミュレーションをやったけど、分かんないや…」
 ミケはもう一度溜め息をつくと、うつむいたまましばし目を閉じた。

コンコン…

 ミケの耳に、誰かがドアをノックする音が響いた。
「…はぁーい」
 気のない返事をすると、ドアが音もなしに開く。
「あ、オーニャー…」
「どうしたんだい、ミケ。さっきのミーティングから、随分と元気がないじゃないか。緊
張し過ぎているのかい」
「…ううん、それだけじゃないんだけど…」
「悩みがあるのなら、話してごらん」
「え、ううん。いいの。大丈夫」
 そう言って笑顔を見せたものの、誰が見ても作り笑いだと言う事が分かった。
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