マッチメーカー目次へ戻りますプロローグ−1
 穏やかな陽の光が世界を照らし、海が美しく輝いていた。人々の生活はごくありふれた
物で、石造りの家家からは香ばしいパンの香りが漂い、路上にはマーケットが並び、子供
達が走り回っていた。こののどかな世界に”超科学”等という物など全くの無縁の存在で
あった。しかし、科学者が特殊なエネルギー・システムを完成させるに至り、このささや
かな平和が突如として消え去ってしまった。
 平和的利用とうたっていたはずが、システムの登場にともない、世の中のあらゆるバラ
ンス…政治、軍事力等…が崩れた。この時代の3大国家がこのシステムを奪い合い、全く
新しい兵器を創り出そうとした為である。各国家は競って開発を進め、ついに新兵器を完
成させた。この兵器は鋼鉄でできた人型で、その戦力はたった一体で数万の兵力と戦える
程であった。やがて、周辺の小国家を次々と自分達の支配下に置いていくと、3大国家は
世界の覇権を握るべく戦い続けた。戦いは互いに一歩も譲らず、なかなか決着が着かなか
った。そんなある時、見た事もない別の鋼鉄の人型兵器が出現し、戦いはさらに激しさを
増していった。この戦いは3年間にも及び、世界のほとんどの大地が焼き尽くされ、ボロ
ボロになっていった。鋼鉄の人型兵器も相打ちとなり、動作不能になった。結局自分達の
生活の場を自ら滅ぼし、なおかつ、今までの戦いの影響で天変地異が発生し、全ては水の
中へと沈んでいった。
 後に、人々は特殊なエネルギー・システムを「ストーン・システム」、鋼鉄の人型兵器の
事を「AK(アーマードナイト)」、と呼んだ。


 空は雲一つ無く青々と澄み渡り、海は宝石のようにきらきらと輝いていた。波は浜辺を
いたわるように穏やかで、愛をささやき合う恋人同士のようだ。沖の方に目をやると、漁
船が網を力強く引き揚げていた。しかし、いつもと様子が違っていた。
「あれぇ?おっかしぃなぁ〜魚が全然かからへんなぁ」
 いかにも海の男という風貌の男が、身体に似つかわしくない表情で首を傾げた。
「ほんになぁ、ここ1週間おかしなぁ。何かの前触れでなけりゃいいんだげどなぁ」
 屈強そうなもう一人の仲間も、今までにない異常な状態に頭を悩ませていた。 時は西
暦1999年、世紀末。何か目に見えない力が働きはじめている…誰もがそう思い始めた
年である。いわゆる、「ノストラダムスの大予言」の影響
であろう。世界中の誰もが不安におののいていた。
「…ん?おぅ、なんか聞こえねぇだか?」
 突然一人の漁師が異変に気がついた。
「ん?……お、おぅ…なんか…地響きのような…!」
と、その時である。漁師が対岸に目をやると、鳥達が一斉に飛び立つのが見えた。それと
同時に、海の底から、突き上げるような衝撃を感じた。
「こ、これは…もしかして…じ、じ、地震だぁ!」
「は、早く港に戻るべ!津波がくるど!」
 漁師は急いで舵を取ると、エンジンを全開にした。
 しかし、普段体験しているような地震とは少し違っていた。揺れが…揺れが恐ろしく長
いのである。海面がまるで超高層ビルのように高く聳え、豪雨のように波しぶきが踊った。
「う、うわぁー!」
「た、助けてくれー…!」
 叫び声も虚しく、漁師達は海の中へと引きずり込まれた。
 この大自然の舞の前に、漁船は人たまりもなく海の藻屑と消えた。大自然の舞はとどま
る事を知らず、次第にある一転を中心に、穏やかな円を描き始めた。まるで海に現れた巨
大な目のように…
 地響きは更に激しくなり、世界各国で揺れが記録される程だった。やがて、目の中心か
らなにかが飛び出してきた。よく見ると、それは珊瑚で包まれた巨大な岩だ。岩が無数に
飛び出してくると、次に顔を出したのは海藻まみれになった瓦礫…正確に言えば建造物の
残骸が日の光を浴びた。しばらくすると、巨大な陰が海面を覆い始め、次第にその正体を
現し始めた。大地が…大地が現れたのだ。数時間程時間をかけてゆっくりと浮上したこの
大陸は、アメリカ大陸とアフリカを分ける大西洋上に位置し、あの幻の「アトランティス
大陸」ではないかと全世界の注目を集めた。世界各国から調査団が次々とこの大陸に調査
にやって来ては、連日テレビで特集を報じていた。当時の人々の生活ぶりや環境などが調
査により分かってきたが、なぜここまで建造物が破壊されていたのか、なぜ大地が激しく
焼け焦げていたのか等、理解し難い部分もあり、調査団を悩ませていた。しかし調査が進
むにつれ、この大陸がアトランティス大陸という事、この時代にすでに鋼鉄の人型兵器が
あったという事が分かるにつれ、そのテクノロジーの高さに科学者達は舌を巻いた。そし
て悲しい事に、このテクノロジーに目を付けた軍の科学者達は、発掘・研究された資料を
参考にこの人型兵器を造りだそうとしていた。5年後、大方は完成したものの、エネルギ
ーシステムに付いては全くの不明であった。しかたなく、エネルギーシステムには当時の
テクノロジーの粋を集めて、安全かつ高出力のエンジンが採用された。この人型兵器はア
トランティス大陸から発見された人型兵器が、まるで鎧を身につけた騎士のようだったた
め、AK(アーマードナイト)と呼ばれた。
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