マッチメーカー目次へ戻ります【第6話】The Match Maker−2
「…ああ、分かったよ。任せてくれ」
 トミーは胸を張って答えると、あらためて、一同の前で挨拶を始めた。
「えー、今日からこの、『D−アトランティス』のオーナーになりました、トミー・ウイリ
アムズです。オーナーという大役は初めてで、右も左も分かりませんが、どうぞ宜しく」
 トミーは一同の前で頭を下げると、はにかんだような笑みを見せた。
「さぁ、みんな。顔合わせも済んだことだし、ここいらでぱぁ〜といかないか」
 そう切り出したのは、マーティンだ。結構な宴会好きなようである。
 一同は早速、休憩所である軽喫茶へと急ぐと、ささやかな宴会を始めた。そんな中、ト
ミーは一人複雑だった。結局、サムスに丸め込まれ、チームのオーナーにまで祭り上げら
れたのだから。
(…やれやれ、とんだ事になってしまったな。…これもサムスの言う、”ある巨大なプロジ
ェクト”の一部なのだろうか…)
 彼は、グラスに残ったウイスキーを一気に喉に流し込むと、これからの事に思いをはせ
た。


 ささやかな宴会もほどなく終わり、トミーとミケは家へと戻っていた。明日からはミケ
は、スター・アトランティスに乗り込んで、本格的な訓練を受けなければならない。した
がって、彼女とゆっくりと過ごせる時は、今しかないのかもしれない。
 トミーはそんな事をいろいろと考えながら、居間のソファーに体を埋めていた。そこへ、
ミケが温かい飲み物を持って、トミーの前にちょこんと座った。
「どうしたの、さっきから考え込んでいるみたいだけど…」
 ミケは、トミーの前にコーヒーの入ったカップを置くと、ホットミルクをすすりながら
彼の顔をじっと見つめた。
「いや…もうこれからは、こんなにゆっくりとした時は過ごせないな、て思っていたんだ」
 彼はコーヒーを一口すすると、一つ大きな溜め息をつく。
「だぁ〜いじょうぶだよぉ。何時でもオーニャーとあえるんだし」
 ミケは、尻尾を上下にペタペタしながら話す。しかしその顔には、寂しさと不安、期待
と興奮が入り交じった、複雑な思いが滲み出ていた。
「…ミケ、ちょっと早いけど、お誕生日おめでとう」
 トミーは宴会の帰り道、ミケに気付かれないように買った小さな箱を、ミケに手渡した。
「え!?私に…何だろう…」
 可愛らしい、小さなバラ柄の包装紙に包まれ、真っ赤なリボンで結ばれたプレゼントを
受け取ると、ミケは目を輝かせながら紐を解く。
「わぁ〜、綺麗なブレスレット…有難う、オーニャー。大事にするからね」
 それは金色に輝き、小さな水晶片と、深く青いラピスラズリが埋め込まれたものだった。
「…それはね、ミケを守ってくれる『お守り』なんだ」
「『お守り』?」
「ああ、そうだ。水晶は集中力を高め、ラピスラズリが、身に付けているものを災難から
守り、正しい方へと導いてくれると言われている。そして、金がその効果を倍増させると
か…」
「ふぅん…それじゃあ、いつも肌身離さず付けているね」
 ミケはそう言いながらブレスレットを左の手首に付けた。
「そうそう…大事なものを忘れていたよ」
 トミーはそう言って立ち上がると、台所から綺麗にデコレーションされた、バースデー
ケーキを運んでくる。
「ああ〜、ケーキだ〜!」
 ミケは、ふさふさの尻尾をフリフリとふりながら、目はケーキに釘付けになっていた。
「う〜ん…帰ってきてから急いで作ったから、形はいまいちだけど……」
「ううん、いいの。とっても美味しそうだよ」
「ありがとう、ミケ…さて、と。ローソク火を点けて…<
 ちょっと早いけど…お誕生日おめでとう」
「…ありがとう…オーニャー…」
 ミケは少し涙ぐみながらうつむいた。
「…ミケ…えっと、今日でいくつになるんだっけ」
「…くずっ…んとね、18になるんだよ」
 トミーは、ミケの顔を優しく見つめながら
「…アーマード・ナイトの操縦、頑張ってな…」
「…うん」
 二人は、今日ばかりは時を忘れて、明け方近くまで四方山話などをして過ごした。お互
いに言葉には出さないが、何か寂しいものが心に広がっているのを感じていた。


 翌朝、二人は眠い目をこすりながら、サムスのいるD−ラボラトリー社の応接室へと向
かった。
「どうしたんだ、二人とも。随分と寝むそうじゃないか」
 サムスは開口一番、呆れた調子で言った。無理もない、今日から本格的にアーマード・
ナイトの操縦訓練が始まると言うのに、眠そうな顔で来られたんでは…
「…すまない」
 トミーは、ペコリとひとつ頭を下げると、すまなさそうにうつむいた。
「どうした、興奮して眠れなかったのか…まあいい。まずはこれを渡しておこう」
 トミーが受け取ったのは、一枚の顔写真入りのIDカードだった。
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