マッチメーカー目次へ戻ります【第4話】再 会…−3
「どうしたんだい、ミケ。さぁ、オーナーに御挨拶しなさい」
「…うん」
 ミケは、気の無い返事をすると、ようやくトミーの前に歩み出た。
 彼女は髪をおさげにしており、薄いピンク色のブラウスの上に、クリーム色をしたセー
ターを着ている。下の方は、赤色の足首までの長さのスカートを穿いていた。そして、一
つ気がついたのが、彼女がハート型の首飾りをしているという事だ。サムスからのプレゼ
ントだろうか…
「…あの…は、初めまして。ミケ・フラネシアといいます。オーニャー…よ、よろしくお
願いします」
 以前のミケとは信じられないくらいに、引っ込み思案な性格になってしまったようだ。
「…私がオーナーのトミー・ウイリアムズだ。こちらこそ、よろしく」
 トミーは挨拶をするものの、疑いの目をサムスに向ける。
「まあ、二人とも。玄関で立ち話もなんだから、上にあがってくれ」
 トミーは、サムスに物問たげな視線を向けながら、家の中へと勧めた。
「ああ、そうだな。まだまだ話したい事もあるしな」
 サムスはそう言うと、ミケを促しながら靴を脱ぎはじめる。トミーは、二人を居間に案
内すると、コーヒーを入れながら話す。
「なあ、サムス。君といろいろと話したい事があるんだが…」
「…ああ、私もだ」
 サムスは、コーヒーをブラックで一口すすると、ミケに笑顔で言う。
「ミケ、オーナーに君の部屋を見せてもらってごらん。きっと気に入ると思うな」
 コーヒーに、ミルクと砂糖をたっぷりと入れてすすっているミケは、少し不安げな顔で
答える。
「う、うん」
「大丈夫だよ。きっと落ちつくから」
「…」
 どうやら、彼女はまだ警戒しているらしく、サムスの側を離れるのが心細いらしい。
「ミケ、君の部屋へ案内しよう。明るくて、窓からの景色がとってもすばらしいんだ。き
っと気に入ってもらえると思うな」
 トミーは、サムスの考えを察して、ミケを二階へと誘う。
「…」
 ミケは、トミーの顔を下から覗くようにみると、プイっと目を外らしてしまう。トミー
にとって、この事は胸をえぐられるような思いだった。トミーは、しばらくの間ショック
の為に硬直してしまうと、そんな彼に見かねてサムスが助け船を出した。
「さぁ、ミケ。いつまでも座っていないで…さぁ」
 そう言うと、サムスはミケの腕を引っ張って立たせようとする。ミケは、最初のうちは
ガンとして立とうとはしなかったが、やがて諦めたのか、やっとの事で立ち上がった。
「さぁ、トミー。ミケの部屋へ案内してくれないか」
「…あ、ああ。分かった」
 トミーは何とか気を持ち直すと、二人を二階にある、ミケの部屋へと案内した。
「ほおー、なかなかいい部屋じゃないか。この時代に、これだけの自然が見れるところな
んて、そうないぞ」
 サムスはそう言うと、机に腰掛ける。トミーは、まだ入り口でつっ立ったままのミケを
部屋の中央まで連れてくると、窓の外を眺めさせた。
「…どうだい、ミケ。都心のビルばかりの景色と違って、空気もよいし、心地よいだろ」
 トミーは、そうミケに話しかけると、彼女の反応を伺った。サムスもさりげなく彼女の
表情を観察すると、トミーに目で、下へ降りるように合図する。
「…ミケ、疲れているようだから、ここで休むといい。と、言っても、ここは君の部屋だ。
自由に使うといいよ」
 トミーは、優しくミケに話すと、彼女をベッドに座らせた。
「ミケ、私たちは居間にいるから、何か用があったら降りて来なさい」
 サムスは、ミケの肩に手をおいてそう言うと、静かに部屋を出た。
 二人は、居間につくまでは無言だったが、扉を閉めるなり開口一番、トミーが不満の声
をあげる。
「サムス、話しとかなり違うじゃないか!ミケの性格が全くと言っていい程違う。ミケは
…ミケはあんな性格じゃない。もっと…もっと活発で明るい子だった。それなのに…それ
なのに…!」
 トミーは、両の拳を握りしめながらサムスに詰めよった。しかし、サムスは動じる事無
く、冷静に話しはじめた。
「…きっと人見知りをしているんだよ。私の前では、確かに以前の彼女の性格と何等変わ
りはなかった。正直言って、私も驚いているよ。さっきの目を外らせる仕草といい、一体
どうしてしまったものか」
「どうしてしまったものか、じゃないだろサムス!こんな事は考えたくないが、君のマイ
ンド・プログラムミスだ等という事はないだろうな」
 トミーは、サムスをきっと睨みすえながら彼の答を待った。サムスは、ズボンのポケッ
トから、クシャクシャになったノン・タールタバコを取り出すと、口に銜えながら真剣に
話し出す。
「いいかい、トミー。マインド・プログラムというのは、100%確実なものではないん
だよ。特に人間、あるいはヒューマノイドといった、自分の意志で考え、行動する動物に
とってはかなり難しい技術なんだ。もっとも、プログラムを施す対象に対して、自分の思
い通りに動かすだけの、『ロボット』にするのならば簡単だがね。ちなみに、ヒューマノイ
ド・バトルのヒューマノイド達は、この部類に入る。他に似たような方法として、「マイン
ド・コントロール」、いわゆる「洗脳」がある。この方法はかなり昔からあるものだが、結
局は部分的なものでしかないんだ。それに、時間もかかるしな。ミケのように、一旦自分
の意志を持ち、思い出や経験等の記憶を脳裏に刻み込んだ脳に対しては、なおさらだ」
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