マッチメーカー目次へ戻ります【第4話】再 会…−1
 翌日の電子新聞・テレビでは、軍によるヒューマノイド一斉掃討の話題で持ちきりだっ
た。各々報道特番を組んでは、なぜヒューマノイドがあのような暴動を起こしたのか、各
分野の専門家が登場しては、あれこれとうんちくを並べ立てていた。まあ、ほとんどの専
門家が、誰でも知っているような事を、さももっともらしく解説していたが…
 しかし、そんな中で目立つものがいくつかあった。まず、D−ラボラトリー社…サムス
の会社が、倒産寸前という事だ。毎日のようにマスコミに叩かれては、サムスがインタビ
ューに応える、という日々が続いていた。また、ヒューマノイドによる被害にあった人々
からは、訴訟問題が持ち上がっていた。そしてもう一つは、「ヒューマノイド保護団体」が、
軍に対して猛烈な抗議をしている事である。連日デモ行進をしては、軍関連施設で大声を
あげていた。
 「ヒューマノイド保護団体」―動物保護団体から派生した、ヒューマノイドに関する権
利や、ヒューマノイドそのものの製造について異義を唱え続けている団体である。この団
体の行動に、ヒューマノイドを始末されたオーナー達はもちろんの事、今までヒューマノ
イドに関心の無かった人々までが賛同し、デモは日に日に大きくなっていった。政府は、
何とか沈静化させようとするが、まるで効果は無く、逆に火に油を注ぐようなものだった。
あちらこちらでストライキが起こり、都市機能が部分的に麻痺しはじめた。初めは交通期
間程度のものであったが、次第にエスカレートして、電力関係、水道、ガス等のライフラ
インにもストライキが及んだ。まさに、都市住民が一丸となって戦った。
 このデモの群衆と、政府との睨み合いは半年近く続いた。途中何度か和解案が提示され
たが、どれも政府にとって都合のよい内容ばかりで話しにならなかった。だが、ストライ
キがライフラインにまで及ぶに至り、ついに、両者が納得できる内容の妥協案が提示され、
騒動は終局へと向かった。その内容は次の通りだった。

 一、 現在生存しているヒューマノイドについては、特に問題を起こさない限り処分は
考えない。
 一、 これからのヒューマノイドの製造については規制を設け、今までのような大量生
産はできない。
 一、 今回の事件を考慮し、「ヒューマノイド・バトル」の開催を全面的に禁止する。

 …以上の三項目が主なもので、通称「ヒューマノイド条項」と呼ばれ、世界各国で発令
された。

 騒動が収まった時、既に吐く息が白くなっていた。


 この半年というものの、家に閉じ込もって、いつまでもふさぎ込んでいる人物がいた。
トミー、その人である。D−ラボラトリー社のサムスと連絡をとろうと、毎日の様にビデ
オ・フォンをかけるが、いっこうに連絡がとれない。それでは、と足を運んでみるが、取
り次いではもらえずに門前払いを食らうばかりだった。そんなこんなで、毎日家の中でた
だ、ボーッとしていては、思い出したように表を覗いてみたりする。こんな調子が、あの
日…ミケがサムスに連れていかれた日からずっと続いていた。そんなある日、ミケが帰っ
てくるまでは入るまいとしていた、彼女の部屋へ入ってみた。部屋は東南向きで日当たり
がよく、明るい部屋だ。カーテンやベッドカバーなどには、可愛らしい花柄の模様がうる
さくない程に施されている。部屋の片隅に目をやると、半年ほど前に書き置きをした机が、
静かにたたずんでいた。トミーは椅子に腰掛けると、窓の外を眺めていた。そこにはあの
夜、ミケを探し回った森が広がっている。彼はあの時の事を思い返していた。その時、ふ
とした疑問が脳裏をよぎる。
(…ミケは…ミケは自分がヒューマノイドという事を知らなかった。それと、自分の両親
の存在についても知りたがっている。最後に最も厄介なのが、ミケ自身がなぜ、どの様に
して、どうやってこの世に生まれたかという事を知らない。いや、知らされていないとい
う事だ。)
 トミーは椅子から立ち上がると、静かに部屋を出た。自分の部屋へと戻ると、机に腰掛
けて、冷めたコーヒーをすすりながら考え込む。
(サムスは、致命的なマインド・プログラムミスだと言っていたが、だとすると、この間
ヒューマノイド達が暴動を起こした理由というのは、マインド・プログラムミスが引き起
こした結果といえなくはないのだろうか。D−ラボラトリー社でサムスが話していた、精
神的ダメージの極限状態が引き起こした結果というのとは、ちょっと違う様な気がする…)
 トミーはカップに残っていたコーヒーを一気に喉に流し込むと、何か腑に落ちない表情
で、更に考える。
(ヒューマノイドの暴動…何か作意的な臭いがする…まさか……)

ピンポーン

 考えにふけっていたトミーの耳に、ドアチャイムの音色が飛び込んできた。彼は、机の
上にあるコンピューターの電源をいれると、カタカタっと操作する。すると画面には、玄
関前の様子が映し出される。そこには、見慣れた顔…今では待ち望んだ顔が映し出されて
いた。
「サ、サムス!」
 トミーはそう叫ぶと、部屋から転がるように飛び出した。慌ててドアを開けると、そこ
には半年ぶりに見るサムスの姿があった。
「久しぶりだな、トミー。」
「あ、ああ。久しぶりだな、サムス…」
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